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ふるさと納税の基本情報 ~限度額の計算方法・手続き~

 先日2018年9月11日、近年話題になっている寄付金税制である「ふるさと納税」について、総務省より制度の趣旨にそぐわない寄付を求める自治体に対して税額控除等を受けられないようにすることを求める法改正案を提出することを発表しました。

 これは、以前より目安とされていた寄付金額の3割分を超える過度な返礼品を送ることにより寄付を募っていたことを問題視したためです。

 また、地場のものでは無いものを返礼品とする自治体も多く、これらのことも制度の趣旨にそぐわないと判断される要因となりました。

 通常、会社員などの給与所得者は、税金に関する手続きは会社がほとんどやることが多いため、ふるさと納税が話題になることにより自分でやるかやらないか、どれくらいやるか、など納税意識が高まってきていると考えます。

 この制度にはメリットもデメリットも多くありますがとてもいい制度だと考えます。

 私自身、まだふるさと納税制度が知られてなかった頃である在学中に研究論文を書いたこともあります。

 現行のふるさと納税について、税額控除等の仕組みや計算方法、手続きなど事務員から見ても少しだけ複雑なものであると思いますので、実用的な情報から制度の理解を深められるような制度の概要など必要な情報を簡潔に説明できたらと思います。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所

 

【限度額の計算方法】

・限度額について

ふるさと納税における限度額とは、税金の控除上限額のことを指します。

 ふるさと納税による税額控除等は、青天井というわけではなく上限があります。

 つまり、ふるさと納税を利用した寄付は、限度額までは控除として所得・住民税から差し引くことができ、限度額を超えての寄付は控除等が受けられない本当の意味での寄付になってしまう、ということです。

・税金の控除額について

 ふるさと納税をすると税金が安くなる理由は、寄附金控除という制度があるためです。

寄附金控除は、確定申告の際に記載することで所得控除を受けることができます。

 ただし、給与所得のみの会社員など会社で年末調整を行っている場合は、寄附金控除は計算に含まれていません。

 具体的にいくらの税金が控除されるかというと、

寄付額 - 2000円 の 上限額までが翌年納付する税金より差し引かれます。

 差し引かれる税金は、

確定申告をする人 → 所得税と住民税

 ・確定申告をしない人 → 住民税

 より控除されることになります。

 以下のケースを紹介します。

① 個人事業主で上限額が10万円と計算された人が合計15万円のふるさと納税を行った場合

 ② 一般的な会社員で上限額が10万円と計算された人が合計15万円のふるさと納税を行った場合

① のケース

 ・上限額10万円まで

 10万円 - 2000円 = 9万8千円

 控除対象額内であるため、所得税(来年納付する今年の税額)と住民税(来年納付する今年の税額)が減額します

 ・上限額10万円を超えた金額

 15万円 - 10万円 = 5万円

 限度額を超えているため、税金の減額はありません

② のケース

 ・上限額10万円まで

 10万円 - 2000円 = 9万8千円

 控除対象額内であるため、住民税(来年納付する今年の税額)が減額する

 住民税が源泉徴収により給料から引かれている場合は、翌年の6月より引かれる金額が減額する

 ・上限額10万円を超えた金額

 15万円 - 10万円 = 5万円

 限度額を超えているため、税金の減額はありません

・限度額の計算方法

 では、実際にいくらまでの寄付であれば寄付金全額に対して税額等の控除を受けられるのでしょうか。

 この限度額の自力算出は、少し複雑であるため大まかに説明します。

 これは、確定申告をする方もしない方も同じ計算になります。

 ふるさと納税の限度額が必要になるケースは、年間の所得が確定する前だと思われますので、予定額を求める必要があります。

 最終的に限度額の計算に必要になる項目は、2つあります。

・所得税の年間予定課税所得にかかる所得税率

・住民税の年間予定課税所得にかかる所得割の金額

 注意事項として、所得税の課税所得と住民税の課税所得は、一部の控除額が異なるため、同一ではないということです。

 次の計算順序で、限度額を求めていきます。

① 年間予定収入を出す

 ② 所得税の年間予定控除額を出す

 ③ 住民税の年間予定控除額を出す

 ④ 予定所得税率を出す

 ⑤ 住民税の所得割の予定額を出す

 ⑥ ふるさと納税限度額の算式に当てはめる

① 年間予定収入

1~12月の収入(税金・社会保険・年金・生命保険料控除などを引く前の金額)になります。

 前年の収入や当年すでに実現した収益を参考にしたり、例年とは異なる変動額などを考慮して、目安として算出してください。

 なお、ボーナス・賞与も含めることを忘れないでください。

 ② 所得税の年間予定控除額

 ③ 住民税の年間予定控除額

 ① 年間予定収入に対して差し引くことのできる金額の合計になります。

 普段税金計算をしない人にとっては、この金額を算出するのが一番大変かと思われますので注意してください。

 所得税と住民税の課税所得を求める際の控除額が異なるため、それぞれ対応した金額を使ってください。

 ・給与所得控除

 給料を受け取っている人が対象になります。

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) → 給与所得控除額

1,800,000円以下 → 収入金額×40%(650,000円に満たない場合には650,000円)

1,800,000円超3,600,000円以下 → 収入金額×30%+180,000円

3,600,000円超6,600,000円以下 → 収入金額×20%+540,000円

6,600,000円超10,000,000円以下 → 収入金額×10%+1,200,000円

10,000,000円超 → 2,200,000円(上限)

国税庁 給与所得控除

https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1410.htm(2018年9月14日)

 ・社会保険料控除

 社会保険に加入している人が対象となります。

 毎月の給料が変わらない人でしたら10%~15%を目安に計算してください。

 ・国民年金保険料控除

 国民年金を自分で納めている人が対象となります。

 社会保険に加入している人は含まれません。

 平成30年は、年間196,080円(月16,340円)です。

・国民健康保険料控除

 国民健康保険料を納めている人が対象となります。

 社会保険に加入している人は含まれません。

 前年の所得により4月から翌年3月までの金額が決まるため、年間予定額は算出できるはずです。

 年齢や自治体により保険料が異なるため、合わせて計算してください。

松本市 税額計算の方法

https://www.city.matsumoto.nagano.jp/smph/kurasi/zekin/hokenzei/kokuhozei_23.html

 ・基礎控除

 全員が対象となります。

所得税は38万円、住民税は33万円です。

・配偶者控除(配偶者特別控除)

 一定の条件を満たす配偶者がいる人が対象となります。

 一般的な配偶者で給与所得が103万円以下の場合、所得税は38万円(70歳以上は48万円)、住民税は33万円(70歳以上は38万円)です。

・扶養控除などの控除(一般・特定・老人)

 一定の条件を満たす扶養親族がいる人が対象となります。

 一般扶養は、16歳以上19歳未満及び23歳以上70歳未満の扶養親族です。

 特定扶養は、19歳以上23歳未満の扶養親族です。

 老人扶養は、70歳以上の扶養親族です。

 扶養控除には、他にも障害者控除や寡婦控除、同居の有無になどによっても控除があり、その金額も変わります。

 ここでは、一般扶養・特定扶養・同居老親等扶養のみ取り上げますが、その他控除対象者がいる場合は、国税局・自治体のHPなどでご確認ください。

 一般扶養の子ども・特定扶養の子ども・生計を一にしている同居の親・同居ではない親 が1人につき、

 一般扶養の子ども 所得税38万円 住民税33万円

 特定扶養の子ども 所得税63万円 住民税45万円

 同居の親 所得税58万円 住民税45万円

 同居ではない親 所得税48万円 住民税38万円

・生命保険料などの掛け金による控除

 生命保険・個人年金・介護医療保険・地震保険・火災保険・小規模共済などの掛け金がある人が対象となります。

 計算方法については、国税局・自治体のHPなどでご確認ください。

 生命保険・個人年金・介護医療保険で所得税は最大12万円、住民税は最大7万円です。

 地震保険・火災保険で所得税は最大5万円、住民税は最大2万5千円です。

・その他の控除

 医療費控除やふるさと納税以外の寄付金控除などがある人が対象となります。

 年末調整だけでなく確定申告が必要なものもありますので注意してください。

 計算方法については、国税局・自治体のHPなどでご確認ください。

 ここまでが所得税・住民税の課税所得を出す準備になります。

当年の所得は、あくまで12月31日に初めて確定するものなので、大体の金額で構いません。

 ④ 予定所得税率

 ① 年間予定収入から② 所得税の年間予定控除額を差し引いた金額である所得税の予定課税所得に対応する所得税率を指します。

 所得税率は以下の通りです。

 補足ですが、当年の予定所得税は、算出した課税所得に所得税率を乗じて控除額を差し引くと算出できます。

課税所得(控除等を引いた金額) 税率

 195万円以下 5% 控除額0円

 195万円を超え330万円以下 10% 控除額97,500円

 330万円を超え695万円以下 20% 控除額427,500円

 695万円を超え900万円以下 23% 控除額636,000円

 900万円を超え1,800万円以下 33% 控除額1,536,000円

 1,800万円を超え4,000万円以下 40% 控除額2,796,000円

 4,000万円超 45% 控除額4,796,000円

国税庁 所得税の税率

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm(2018年9月14日)

⑤ 住民税の所得割の予定額

① 年間予定収入から③ 住民税の年間予定控除額を差し引いた金額である住民税の予定課税所得に対応する予定住民税の所得割部分を指します。

所得割は住民税の課税所得の10%です。

 補足ですが、当年の予定住民税は、算出した所得割に均等割(松本市は5,500円)を足すと算出できます。

 ⑥ ふるさと納税の限度額

 ふるさと納税の限度額は、以下の算式で求められます。

限度額 = (住民税所得割額×0.2)÷{(90%-所得税率×1.021)÷100}+2000円

 算出に当たっては、 ふるさと納税の限度額算出用 Excelシート をご活用ください。

 ふるさと納税サイトにも簡単なシミュレーションがありますので、併せてご活用いただくといいでしょう。

ふるさとチョイス 「ふるさと納税」還付・控除限度額計算シミュレーション

https://www.furusato-tax.jp/about/simulation(2018年9月14日)

以下の算式でも算出できます。

課税所得(控除等を引いた金額) 税率  ふるさと納税限度額

 195万円以下 5%  住民税所得割額×24%+2000円

 195万円を超え330万円以下 10%  住民税所得割額×25%+2000円 

 330万円を超え695万円以下 20%  住民税所得割額×29%+2000円 

 695万円を超え900万円以下 23%  住民税所得割額×30%+2000円

 900万円を超え1,800万円以下 33%  住民税所得割額×36%+2000円 

 1,800万円を超え4,000万円以下 40%  住民税所得割額×41%+2000円 

 4,000万円超 45%  住民税所得割額×45%+2000円 

 簡潔に説明すると言っても、これだけの項目があり、それなりの知識を必要とします。

 寄付を通じて返礼品の受け取りを目的とする場合、限度額を超えてしまうと超えた分だけ控除を受けることができなくなってしてしまうため、一つずつ確認してみてください。

 一般的な会社員のように給与所得のみの人は、収入が大きく変動することがなければ毎年年末に会社から受け取る源泉徴収票をもとに計算することが望ましいでしょう。

 例年に比べて収入が変動している場合は、給料明細や振込金額をもとに毎月の給料や夏季冬季ボーナスなどより計算することになりますが、源泉徴収額に注意してください。

 限度額計算のスタートである予定収入額は、給与収入であり実際の手取り額ではありません。

 また、所得税の源泉は概算であるため、年末に確定する所得税額よりも多くなっていることが多いため、考慮してください。

 また、住宅ローンがある場合は、所得税・住民税計算の際に引き忘れないようにしてください。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所
 

【控除を受けるための手続き】

・各自治体に寄付する

 各自治体へは、ふるさと納税サイトなどを通じて納付書やクレジットカードで寄付をします。

 寄付する金額により返礼品を受け取ることができる場合は、併せて選択することになります。

寄付金の用途やワンストップ特例制度の有無についても選択することになりますので、必ず確認してください。

自営業の人など確定申告をする人は、確定申告書による寄附金控除を受けます。

一方で、一般的な会社員のような給与所得のみの人は、ワンストップ特例制度による税額控除を受けることができます。

 ふるさと納税の控除だけであれば、ワンストップ特例制度を選択したほうが手続上簡便であるため、適用できる場合は選択しましょう。

・確定申告により寄附金控除を受ける

確定申告書に記載することで寄附金控除を受けることができます。

 確定申告書の第一表の寄附金控除欄、第二表の寄附金控除欄に金額及び寄付先の所在地などを記載します。

 また、申告の際に寄付金証明書を添付することが必要になります。

 寄付金証明書は、ふるさと納税の場合、寄付金受領証明書や寄付金領収証明書などの名称で寄付した自治体より必ず送られてくるため、寄付後に必ず確認してください。

・ワンストップ特例制度の申請をする

市町村民税・道府県民税の寄附金税額控除に係る申告特例申請書という書類(以下、ワンストップ申請書といいます。)を送付することで税額控除を受けることができることができます。

 ワンストップ特例制度を利用して税額控除を受けるためには、

・ふるさと納税の寄付先が5自治体以内である

・ふるさと納税をしないと仮定した場合、確定申告が必要ない人

 の2点を満たす必要があります。

 また、翌年の1月10日までに、寄付先の各自治体へワンストップ申請書を送付する必要があります。

 ワンストップ申請書及び寄付金証明書は、寄付した自治体より必ず送られてくるため、寄付後に必ず確認してください。

 ただし、ワンストップ申請書に関しては、寄付時にワンストップ特例制度を利用すること選択することが必要な場合もありますので、寄付申込の際に確認してください。

 給与収入が確定し源泉徴収票を受け取った後、12月末に駆け込みでふるさと納税をする場合などは、期限が短いので注意してください。

ワンストップ申請書には、本人情報の記入や捺印が必要になります。

 特に、マイナンバーカード・通知カード・住民票の写し のいずれかのコピーが要りますのであらかじめ準備しておきましょう。

 また、ワンストップ申請書が受領されると受付書が返送されますので、確認しましょう。

 

【まとめ】

 当記事では紹介できませんでしたが、ふるさと納税のいい点は、税金の一部を好きな自治体へ納めることができることです。

 この制度により、生まれ育った地元や復興に苦労している被災地などへ自分の納める税金を直接回すことができ、限度額以内であれば大きな負担なく、また、その用途が自分で決められるという点でも画期的な制度だと考えます。

 ふるさと納税の利用者からすれば返礼品分がお得になりますし、自治体からすれば財源が潤い、返礼品分だけ生産者が喜びます。

 ふるさと納税に係る控除を受けるための手続きだけであれば、確定申告でもワンストップ特例制度でも手間ではないと思われます。

ただし、本来確定申告が必要ない人がワンストップ特例制度を利用できず確定申告をする場合は、自営業者などと同様の確定申告の手続きが必要になりますので注意してください。

 また、控除限度額については煩雑ではあるため、最低限の負担でふるさと納税を利用したい場合には、シミュレーションでは概算額になってしまうことも多いため、しっかり計算してみてください。

 余談とはなりますが、松本市の寄付実績は以下のようになっています。

平成20年度 32件 3,114,000円

平成21年度 21件 1,656,000円

平成22年度 21件 1,469,000円

平成23年度 16件 743,000円

平成24年度 20件 1,105,000円

平成25年度 56件 2,071,723円

平成26年度 371件 5,468,000円

平成27年度 688件 8,314,501円

平成28年度 1,041件 20,132,074円

松本市「ふるさとまつもと寄附金」

https://www.city.matsumoto.nagano.jp/smph/shisei/kikakuseisaku/furusato_kifu/furusatomatumotokihukinboshu.html(2018年9月14日)

ふるさと納税の知名度も上がってきたこともあり、近年は金額と件数が伸びていることが分かります。

 ただし、平成28年度の他の市町村と比較しますと、以下のようになっています。

松本市 1,000件 2千万円

 安曇野市 3,500件 8億1千万円

 塩尻市 1,500件 2億3千万円

 岡谷市 2,600件 2億4千万円

 大町市 1,300件 6千万円

 諏訪市 1,900件 5億4千万円

飯山市 45,000件 11億円

 小谷村 43,000件 28億円

 伊那市 59,000件 72億円

総務省 平成30年度ふるさと納税に関する現況調査について

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/topics/20180706.html(2018年9月14日)

松本市のふるさと納税の寄付による収入額が圧倒的に少ないことが分かります。

 一方で人口は長野県の他の市町村に比べて圧倒的に多いわけですから、松本市のふるさと納税による寄付金控除額も比例して多いはずです。

 つまり、松本市の多額の税収が全国の他の市町村に流出していると言えます。

 松本市の方針が「今後も制度本来の趣旨に沿った節度ある取り組みをしていく。」ということですが、財政に余裕があるとしてもこの結果を真摯に受け止めて対応してもらいと私は考えます。


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