top of page
ブログトップ記事P

相続における民法と税法の違い

 相続発生時において、被相続人の財産がいくらあってどのように分配していくら税金を納めるかなど、様々な点で税法と民法が介入してきます。

 土台としての民法が相続に関する規定を定めており、その上で税金の公平性を確保するために税法があるという形になっています。

 例えば、相続財産の分割協議については、相続税法上は法定相続人が法定相続分を相続する前提で税金計算をしますが、実際にどのように財産を分け合うかについては、主に民法の話になります。

 民法も税法もその目的が異なりますので、正しく理解できるとよいでしょう。

 当記事では、実務上混同しやすい相続人・相続財産・財産評価について説明します。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所

 

【相続人についての違い】

・相続の放棄

 ≪ 民法上の扱い ≫

(相続の放棄の効力) 第九百三十九条 

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

民法 第五編 相続・附則

https://www.ron.gr.jp/law/law/minpo_sz.htm#5-zaisannobunri(2018年3月12日)

 相続を放棄した場合、相続とは一切関わりがなくなります。

 遺言による相続等はできませんが、死亡保険金等の受け取りはできます。

≪ 税法上の扱い ≫

 相続を放棄した場合は、相続人とみなされません。

 しかし、法定相続人の数においては、相続の放棄をした人がいてもその放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。

 相続税の基礎控除は、(3,000万円 +600万円 ×法定相続人の数)で計算されますが、配偶者1人・子3人が相続するケースで、子全員が相続を放棄して配偶者が全財産を取ろうとしても、基礎控除の金額は、3,600万円とはならず5,400万円となります。

 これは、相続計算の公平性の確保と、相続の放棄により法定相続人の数を調整して相続税を免れようとすることを防ぐためです。

 もし、相続の放棄により法定相続人から外れてしまうのであれば、配偶者1人・子1人・兄弟4人が相続するケースで、子が相続を放棄してしまうと、法定相続人は、配偶者1人・子1人から配偶者1人・兄弟4人へと変わってしまい、基礎控除の金額は、4,200万円とはならず6,000万円となってしまうためです。

 相続を放棄した人が死亡保険金等を受け取った場合も、みなし相続財産として相続財産に含まれ課税対象となりますが、あくまで相続人とはみなされないため、(500万円 ×法定相続人の数)の非課税限度額 等の適用は受けることができません。

 ただし、法定相続人の数については同じ扱いであるため、相続を放棄しない人が死亡保険金等を受け取った場合は、相続の放棄をした人がいてもその放棄がなかったものとした場合の相続人の数を法定相続人の数とします。

・養子の人数

≪ 民法上の扱い ≫

 人数に関する規定はないため、上限はありません。

≪ 税法上の扱い ≫

 相続税の計算において、相続税の基礎控除や死亡保険金等の非課税限度額は、法定相続人の数をもとに算出されますが、法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、以下のように定められています。

・被相続人に実の子供がいる場合 養子のうち1人まで

 ・被相続人に実の子供がいない場合 養子のうち2人まで

なお、次のいずれかに当てはまる人は、実の子供として取り扱われますので、すべて法定相続人の数に含まれます。

 ⑴ 被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となっている人

 ⑵ 被相続人の配偶者の実の子供で被相続人の養子となっている人

 ⑶ 被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた人で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった人

 ⑷ 被相続人の実の子供、養子又は直系卑属が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子供などに代わって相続人となった直系卑属。なお、直系卑属とは子供や孫のことです。

国税庁 相続人の中に養子がいるとき

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4170.htm(2018年9月10日)

 養子については、相続権などについても法律上の規定や制限が多くありますので注意が必要です。

 

【相続財産についての違い】

・みなし相続財産

≪ 民法上の扱い ≫

 相続財産は、基本的に被相続人が亡くなった時点に所有していたすべての財産となります。

死亡保険金 等のみなし相続財産は、受取人固有の財産であるため、遺産分割の対象にはなりません。

 ≪ 税法上の扱い ≫

 相続財産は、基本的に被相続人が亡くなった時点に所有していたすべての財産となります。

 ただし、相続税計算上、みなし相続財産は、相続財産に含まれます。

 詳しくは、 相続財産に含まれるものと含まれないもの を併せてご覧ください。

・特別受益と寄与分

 ≪ 民法上の扱い ≫

(特別受益者の相続分) 第九百三条 

 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

 3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

第九百四条 

 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

(寄与分)

第九百四条の二

 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

 2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

 3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

 4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

民法 第五編 相続・附則

https://www.ron.gr.jp/law/law/minpo_sz.htm#5-zaisannobunri(2018年3月12日)

 民法では、相続財産を公平に分けることができるよう規定が定められています。

特別受益とは、相続人が被相続人から生前に贈与受けていたり、遺言 等により遺贈を受ける利益を受けるなど、特別な扱いのもと利益を享受したことを指します。

 例として、結婚や住宅資金の贈与、土地・建物等の無償賃貸、生活費や学費の援助などあります。

遺産分割の公平性を保つため特別受益は、受益者の法定相続分からマイナスして計算することになります。

 特別受益に関しては、財産分与や寄与分や遺留分などにも関係する項目であり、認定するにも状況に応じた判断が求められます。

 これは、生計の資本としての贈与を特別受益とする一方で、親族間の扶養の金銭援助は課税対象となる贈与としないという考えがあるためです。

 例として大学の学費の援助を挙げますと、医学部などの通常の大学と比べて学費の高い学校へ通う・海外留学をする・大学へ通わせることができないような非常に困難な家庭でも特別に援助された などのケースは、特別受益にあたる可能性があります。

 一方で、大学へ通わせるだけの余裕がある比較的裕福な家庭で学費や生活費の援助を受けた・相続人全員を大学へ通わせた などのケースは、特別受益にあたらない可能性があります。

寄与分とは、被相続人に特別な利益をもたらしていた相続人には、より多くの相続財産を取得する権利を認め、その取得増加部分のこと指します。

 例として、看護や生活扶養、資金提供や無償従事、財産形成や財産管理などがあります。

遺産分割の公平性を保つため寄与分は、負担者の法定相続分にプラスして計算することになります。

 寄与分が認められるためには、民法上や判例上、非常に厳格な基準があるため簡単には適用されるものではありません。

 認められるかどうかは、家庭裁判所の判断にもよりますので、重要な部分のみ説明します。

 まず、相続人であることが要件であるため、内縁の妻などが被相続人の看護に従事しても負担者本人の寄与分は認められません。

 ただし、夫が相続人である場合は、寄与分が認められる場合もあります。

 また、「特別の寄与」が要件であるため、これにあたるものでなければ寄与分は認められません。

「特別の寄与」とは、

・無償であること(報酬額が貢献した分よりも少ない場合を含む)

・長期かつ専従であること(片手間ではないこと)

・通常を超えた貢献をしていること(親子や夫婦は助け合う義務があるとされるため介護などは含まれにくい)

 などがあります。

 相続財産は、遺言等がない部分は遺産分割協議により自由に相続人同士で分け合うことができるため、特別受益も寄与分を認められる場合には主張する必要があります。

 相続人が主張をしなければ特別受益も寄与分も考慮されるということではないので、注意してください。

 遺産分割協議で特別受益及び寄与分が認められない場合には、証拠を集めたのち遺産分割調停で権利を主張していくことになります。

≪ 税法上の扱い ≫

 税法では、被相続人の財産に応じて税金を決定する規定が定められています。

 そのため、被相続人がすでに贈与し手元から離れた財産である特別受益は、相続財産に含まれず課税対象にはなりません。

 また、被相続人の財産となっている寄与分は、被相続人固有の財産であるため、相続財産に含まれ課税対象となります。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所
 

【財産評価についての違い】

・相続財産(特に不動産)の評価

≪ 民法上の扱い ≫

 基本的には、遺産分割時の時価で評価することが多いようですが、特に規定はないため、時価に限らず相続人同士で決定することができます。

 話し合いで相続財産をどのように分けるか決める遺産分割協議では、相続人同士が納得すれば好きなように財産を分けることができるので、財産そのものの価値はあまり関係がないということです。

 ただし、遺留分等と考慮して遺産分割する際は、時価で評価します。

 「遺産分割時」の時価で評価されることが多い理由としては、亡くなられた時点の時価と遺産分割時の時価が大きく乖離している場合があるためです。

 例えば、相続発生時に路線価方式により農地を1000万円と評価できたとしても、後日、大型商業施設が建設されることが決定され、遺産分割協議時には5000万円の価値になっていた場合、その農地が1000万円だと主張するわけにはいかないでしょう。

 時価について、現金のようなものであれば額面金額=正確な時価 なので争点にはなりませんが、不動産における正確な時価は、その評価方法や状況によって変わってきますので争点になることがあります。

 一応の基準である評価方法として、実勢価格と公示地価があります。

実勢価格は、不動産業者に実際の取引価格を算定してもらう方法です。

 その不動産業者がいくらなら他人に売ることができるかという時価に一番近いとされる評価方法です。

 ただし、不動産の需要等にもよりますので、不動産業者やその状況によっても算定金額が異なります。

公示地価とは、地価公示法に基づいて国土交通省が、適正だと定める地価であり、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するものです。

 標準地というその地域で標準的な土地を基準として地価を定めるため、あくまで参考程度にしかならないのが現状なようです。

≪ 税法上の扱い ≫

(評価の原則)

 第二二条 

 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

houki.com 相続税法

http://www.houko.com/00/01/S25/073.HTM#s3(2018年3月12日)

 税法上でも相続財産は、時価で評価するとされています。

 ただし、ここにおける時価とは、実際に取引される金額ではなく、財産評価基本通達に基づいて計算される価格になります。

 これは、実際の取引価格である時価よりも低い金額に評価されることが多いです。

 注意しなければならないこととして、税法上の相続財産の評価額は、あくまで相続税を計算するうえでの財産の評価額であり、財産そのものの正確な価値を示しているものではないということです。

 税法上の評価方法として、固定資産税評価額と路線価方式(倍率方式)があります。

固定資産税評価額とは、固定資産税・登録免許税・不動産取得税等の課税標準となる金額を言います。

 この金額は、各市町村が決定し、3年に1度ごとに見直しがされます。

 評価対象は、不動産であるため土地だけでなく建物なども含まれています。

 実際の時価に類似するものである実勢価格や公示地価の7割程度の金額であるとされるため、特に建物は、相続税評価の際は、固定資産税評価額に1.0倍を乗じた金額を使うことが多いです。

 路線価方式とは、道路に面する宅地の1平方メートルあたりの価格のことです。

 この金額は、国税局が公表するものであり、毎年見直されます。

 路線価により評価できるのは、宅地(土地)だけであり、その他不動産は評価することができません。

路線価方式による宅地の評価は、ただ路線価に面積を乗じるだけでできることは少なく、財産評価基本通達によって評価方法が事細かく決められています。

 代表的なものとしては、形の悪い土地、農地、広大地による評価などがあり、これらは土地の評価額を下げることができる規定になります。

 路線価だけの評価になると、実際の時価に類似するものである実勢価格や公示地価の8割程度の金額であるとされていますが、あくまで標準的な宅地としての評価が8割程度ということなので、評価が下がるような土地でしたらより有利になります。

 一方で、国税局が路線価を公表していないような地域が市街地以外などにあります。

 そのような地域は、倍率方式という方法で評価されます。

 具体的には、固定資産税評価額に定められた倍率を乗じた価格を土地の評価額とします。

 倍率は、宅地であれば多くは1.1倍を乗じることになります。

倍率方式である倍率地区は、国税局が公表する路線価はありませんが、市町村が固定資産税等を決定するもととなる路線価は存在します。

相続税の計算における財産評価は、特別措置法による特例や財産評価基本通達に基づき評価をすることで評価額を大幅に下げることができる場合がありますが、その評価額に正解があるかどうかは難しく、高度な専門知識と実務経験が必要となります。

 例えば、細長い宅地や傾斜している宅地を、標準的な宅地として評価するだけでしたら、路線価に面積を乗じれば簡単に算定できます。

 これらは一概に間違っているとは言えませんけれども、特別措置法による特例や財産評価基本通達に基づき評価することが認められている以上、標準的な宅地ではないものを標準的な宅地として評価することは適当ではないと考えます。

 不動産等の相続財産は、金額が大きく、評価一つで相続税額が下がる項目でありますので、特例等をしっかり活用することが望ましいでしょう。 

 

【まとめ】

 相続が発生すると、相続人の方々は普段慣れないような法律や税金などのルールに直面することになりますが、その際に民法と税法を混同してしまうことが考えられます。

 相続対策を考えられている予定被相続人や予定相続人も含め、専門家や文献などを通じて準備されるのが良いでしょう。

 相続手続きにおいて会計事務所・税理士の業務は、税法のルールに従って税金計算をすることが目的ではありますが、隣接業界の業務である遺産分割協議などに関する業務をよく理解することで、相続発生時から相続税の申告まで、適切かつ円滑に進めることができると考えています。


最新記事
bottom of page